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Apologies, Glances and Messed Up Chances

引き算で作る強い組織

なんか、id:kent4989さんの記事にかぶせて書くというのが続いて恐縮ですが、
アジャイル開発に求められる人材像に関する雑感 - 勘と経験と読経
を読んでまたいろいろと刺激を受けたので、いくつか考えたことをまとめておきたいと思います。

プラスアルファかマイナスアルファか?

id:kent4989さんいわく、

これまでの就職や就社では「賢い」ということが重視されてきたのだと考えているのだけど、これからは「賢いプラスアルファ」が必要ということなのだろうか。じゃあ、アルファの部分に入るのは何なのだろうか。

とのことですが、ここで引っかかった点がふたつあります。
「いやいや、もともと賢いだけじゃないさまざまな要素は求められてきていたでしょ?」っていうのがまず1点。そして、氏がプラスアルファの要素として挙げているのって、程度の差こそあれ、氏が冒頭で「PMの97本」や平鍋さんのブログをわざわざ引用している通り、幼稚園で当たり前のように必要とされるものだよね?というのがもう1点。(さらに言えば、この話ってわざわざアジャイル開発に限って言う話でもないよね?というのもありますがw。)

この2点から考えると、幼稚園で学んだことが実践できなくなってしまった要因(社会的通念や規範意識、あるいは「空気」といったもの?)をいかに取り除くか(何をマイナスアルファするか)の方が重要なのではないかというのが私の仮説です。

社会人基礎力と多様性

社会人基礎力についても同様です。
「企業や若者を取り巻く環境変化により」まず変わらなければいけないのは、「社会的基礎力」の一部を封じることで経済成長を実現してきた社会や企業のあり方ではないでしょうか?(よく言われるように「一度の失敗も許されないような環境を作っておいてチャレンジしろと言ったって……」というやつですよ。)
これは、以前のエントリにも書いた、

上で述べたように、自己組織化というのはそれ自体が太古の昔からあるもので、そもそもそっちの方がデフォルトであるとも言えます。ただそれ自体に良い/悪いという概念がないため、道徳・社会規範・ビジネス価値などの視点から有用な方向付けを行うために生まれたのがCommand and Control型のマネジメントや組織であると考えられます。
しかしながら、世の中のComplexityに対応していくためにはそれでは難しいということで、自己組織化が改めて見直されているというのがアジャイル開発への流れの中で見られる現象です。
But...Self-Organization Is Not Enough: 自己組織化チームに関する誤解とマネージャの役割 - Always All Ways

と似た構造に私には見えます。

そしてもうひとつ大事なのは、「社会的基礎力」とはすべての人が等しくバランスよくすべての能力を持つ必要もないし、そこには人それぞれの特徴をいかした「多様性」があってよいだろうということです。(多様性とは社会的基礎力のバラツキのことである、と言ったら言い過ぎでしょうか。)そして、チームや組織における「多様性」こそがイノベーションを生み出す力になるのではないだろうかと思うわけです。

育成の観点から

まぁ、そうは言っても、「幼稚園で学んだこと」や「社会的基礎力」を封じてきた障壁を取り除くだけで、うまくその力が発揮できるかというと、きっとそうではないでしょう。また、そういう「基礎力」を現実世界においてさまざまな「応用力」や「経験」と組み合わせて成果を出していくにはそれなりのトレーニングが必要でしょう。(幼稚園児を集めてきたら、アジャイル開発で素晴らしいシステムが構築できるというわけでもないですよね?)

逆に言えば、これこそがマネージャーの重要な役割の一つなのだと思います。

そのあたりについては、下記の参考記事でも書いているような

  • 自己組織化のシステムを作ること(Development)、そのシステムを守ること(Protection)、そしてその方向付けをすること(Direction)
  • 「経験から学ぶ力」を高める仕組みを組織の活動に組み入れて行くこと

など、マネージャーが意識して取り組むべきことがいろいろ考えられると私自身は思っています。

ここでも「人ではなくシステム(系)をマネージせよ」(Manage the System, Not the People)というのが通用すると思います。

個人のふるい落としかマネージャーのシフトか

記事の最後でid:kent4989さんは、以下のような見解(危惧)を示されています。

しかし「コミュニティ適応性」でも「情熱」でも「社会人基礎力」でも、何かのトレーニングで簡単に獲得できるようなものではないのが気になるところ。このところ大手サプライヤーでも人材転換の話題が出ているが、これで自社人材に簡単にプラスアルファの力がつくとは思えない。ハードルを上げてふるい落とすといった方向となってしまうのではないだろうか。

もし、実際にそういうことになるのであれば、その企業・組織は力を失っていく一方なのではないかと私は思います。

私が上で述べたような仮説の上に立つならば、やるべきことは新たな能力やスキルを身につけるためのプラスアルファの方策やそれに基づくメンバーのふるい落としではなく、マネジメントの弊害を取り除き、メンバーのマインドセットの変革を促す引き算の施策なのではないでしょうか?

  • 工業化を中心とした高度成長時代から続く旧来の思考によるマネジメントの弊害を取り除くこと
  • そこで解き放ったメンバーのマインドセットを適切にガイドするチェンジ・エージェントの育成

そして、そこで読むべき本で言えば、個々人レベルでの「自己啓発本」のような話ではなくて、例えば、"Switch"や"Fearless Change"、"Leading Change"、"Influencer"などにより近い話なのではないかという気がしています。


Switch: How to Change Things When Change Is Hard

Switch: How to Change Things When Change Is Hard


Fearless Change: Patterns for Introducing New Ideas

Fearless Change: Patterns for Introducing New Ideas


Leading Change

Leading Change


Influencer: The Power to Change Anything

Influencer: The Power to Change Anything

  • 作者: Kerry Patterson,Joseph Grenny,David Maxfield,Ron McMillan,Al Switzler
  • 出版社/メーカー: McGraw-Hill
  • 発売日: 2007/08/22
  • メディア: ハードカバー
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