Always All Ways

Apologies, Glances and Messed Up Chances

経営にとってのアジャイルその2(Steve Denning on Business Agility)

4月に書いた

というエントリの続編です。

とは言っても、まぁ、Steve Denningのインタビューが昨日公開されていたのでそれを貼り付けてご紹介したかっただけですが(笑)。

ちなみに、上のビデオの前にはこんなのもありました。流れから言うとこちらから観る方がいいかもしれませんが、どちらか片方だけ観るなら上の新しい方がイチオシ。

DADとCBP: アジャイルと規律と能力ベースの計画と

アジャイルと規律(Discipline)および制度化(Institutionalization)については、以前少しこのブログでも記事を書きました。

今日は、たまたまScott W. AmblerのDADに関する記事から辿ってCBPという考え方を知ることができたので、少しメモ書きしておきたいと思います。

インセプション・フェーズを短くする方法

最初に読んだ記事が、

です。これは、Scottによる「アジャイルプロジェクトでインセプション・フェーズに時間をかけすぎてWater-Scrum-Fallに陥らないためのコツ」みたいな記事。それはそれで、ふむふむという感じではあるのですが、注目したいのは、そこにGlen B. Allemanがつけているコメントです。

ここで彼は、「これは防衛や航空産業で"Capabilities Based Planning (CBP)"と呼ばれているものと同じだ。」と言っています。

Capabilities Based Planning (CBP)

CBPについては、そのコメントの中でも背景や歴史含めて簡潔に説明されていますが、Glenのブログの方を見るともう少し情報を得ることができます。

CBPは、不確実性の中での計画を扱う概念であり、アジャイル開発におけるインセプション・フェーズでCapabilityに着目して柔軟で適応可能な計画づくりをするという面では、ちゃんと勉強すれば結構「使える」のではないかという気がしています。(気がしているだけですけど。)

ScrumMasterの存在は本質的な変化の妨げになっているのか?

私自身が、アジャイルなシステム開発やアジャイルな組織についての考えを深める上で、最も影響を受けた人物を5人挙げるとしたら、Tobias Mayer氏は間違いなくそのうちの一人です。

そんな彼が今月から新しいブログを始めました。

単にアジャイル開発がやりたいとかじゃなく、組織やビジネス環境を変えたいと思ってアジャイルに取り組んでいる人たちにはオススメです。
できればブログを読む前に、その背景などを綴った

にも目を通しておくとよいでしょう。

そして、昨日公開された最新記事が、

です。
世の中で"ScrumMaster"を名乗っている人たち(「認定」であろうがなかろうが)には、是非読んでほしい記事です。

ScrumMasterは組織の変化にとって邪魔な存在なのか?

彼の観察によると、ScrumMasterは以下の4つのタイプのいずれかになりがちであるということです。

  1. プロジェクト管理のよりよい方法を探し求めているPM
  2. 人々をよりうまく管理しようとしているマネージャ
  3. わけのわからないロールに投げ込まれたTech Lead
  4. ごくまれにコーチングやカウンセリングのスキルをもった人

最初の3タイプはたとえ短期的にも役には立たないし、最後のタイプの人は別にScrumMasterという名称にはこだわらないでしょう。

そして彼はこう書いています。

I believe the concept of ScrumMaster has done more damage to our industry than it has aided in change.

自らに常に投げかけ続けるべき問い

まぁ、ScrumMasterという名称自体がどうこうというのはさておき、それに類する役割を担っている(と思っている人)は常に自分の存在意義や価値を問うことが求められます。

If you are a ScrumMaster, evaluate your worth. Dig deeper into why you do what you do. Are you truly serving the goal of profound change? Are you rocking the system, making yourself vulnerable, or are you just putting on a new, cool hat while continuing to comply with the status quo? Yes, it's a confrontational question. We need more of those.

大切にしているもの

9月になりました。9月と言えば、XP祭りですね。
今年は、縁あってプログラムの一部であるアジャイルコーチ・ラウンドテーブルというセッションに登壇させていただくことになりました。ありがたいことです。
どこかから「え?おまえ、アジャイル・コーチとちゃうやんけ!」というツッコミが聞こえてきそうですが、いわゆるユーザー企業のマネージャーの立場でアジャイルな開発組織(そしてそうじゃない組織も)に関わってきた経験から、何かしらの発信・貢献ができたらいいなと思っています。

で、そのセッションでご一緒させていただく安藤さんが自身のブログに

という記事を書かれていたので、私も見習ってXP祭りに向けて何か書いておこうと思い立った次第です。
とは言え、過去の職歴やそれぞれの会社でやってきた具体的なことをどこまで書いてよいかわからないので、まずは自分が組織の中でアジャイルの導入・展開をする上で大切にしているもの・ことを過去のブログ記事をふりかえる形で書いておきます。(過去記事の再利用とも言うw)

アジャイル導入はアジャイルにやるのだ

Scrumとは、組織の機能不全を表面化させることで、それへの対処を促すフレームワークとしての特性だけでなく、またその実効性を担保するための、人間の行動・振る舞いを規制・規定するアーキテクチャとしての特性をも持っていると言えるのではないでしょうか。

"Transformation is incremental and iterative"
"Run Change Like an Agile Project"
つまり、アジャイルな組織への転換というものはリニアに進めるものではなく、それこそアジャイル開発そのものと同じように進めるべきであるということです。

その根底にあるのは、Scrum(に限らずアジャイル開発全般的にそうだと思うのですが)が、複雑適応系(Complex Adaptive System)を扱うものであるということ。それを忘れると、本来ワークショップの中で気づき・考えるべき「不確実性にどう対応していくのか?」ということを体験できず、参加者はチグハグな印象を受けるだけでなく、場合によってはワークショップで最も気づいてほしいことに気づかずに間違った理解をしてしまいかねません。

この中でも彼が言っていますが、「Scrumをチェンジ・マネジメントのアプローチとして使う」ということが一つのポイントです。以前のエントリでも何回か書いていますが、「アジャイルの導入はアジャイルにやれ」と言うことですね。それを形にしたのが、上の図のEnterprise Transition Teamであり、具体的には、Transition Backlogにユーザーストーリーの形でバックログをぶっ込んでTransitionの戦略をScrumで回していくということです。

Cherry Pickingに関しては現実的な解釈をするのだ

これは必ずしも「トップダウンでビッグバン的に導入する」ことを意味するわけではありません。ミーム複合体としてのScrumを導入するからといって、それが「全てのミーム(プラクティス)を同時に」導入しなくてはならないというわけではないということです。概念として大きな固まりで捉えること、そしてそれを伝えていくことは重要ですが、個々のプラクティスの導入時期や順序などは、それこそその組織のコンテキストに応じて、というのが正しいアプローチではないかと思います。

ここでのキーは、「コンテキストに合わせたり、相手に合わせたり」と「一体となってあるべき方向に」でしょう。逆に言えば、成果を出している現場では、この2つのポイントをしっかり守った上で現場に合ったやり方をしているのであり、それは単に興味や取っ付きやすさなどに基づく「つまみ食い」としてのCherry Pickingではないということでしょう。

その他

「パイロットの成功がアジャイルな組織をダメにすることもある」- これは我々がアジャイルやリーンの導入をする際にパイロットプロジェクトを実施し、またその結果を考察するにあたって念頭においておくべきことだと思います。

この2つに共通することはいくつかありますが、最も重要なのは「学習」だと思います。フィーチャーチームを作ったり、またコンポーネントチームからフィーチャーチームに移行したりするときも、チーム内におけるSpecializatiionとGeneralizationのバランスを取ったりするときも、そこではある意味個人としてあるいは組織としての「学習」が要求されます。その意味では、Scrumは改善のフレームワークであるとともに、組織の学習を強制するフレームワークとも言えるかもしれません。

尊敬されていないイノベーターに、自分のアイデアを売ってしまわないこと

「How to Change the World 〜チェンジ・マネジメント3.0〜」の中で好きな箇所を一つ挙げろと言われたら、私は次の一節を挙げると思います。

決して、あなたが今後説得したいと考えている人々に尊敬されていないイノベーターに、自分のアイデアを売ってしまわないこと。間違った人々にアイデアを売ると、他の人々の抵抗はより強くなってしまう。

翻訳だと少しわかりにくいかもしれませんが(←自分で言うなw)、原文ではこうです。

Don't sell your idea to innovators who are not respected by the rest of the people you want to convince. If you sell to the wrong ones, the rest will resist even harder.

チェンジ・プログラムを推進するには、組織内のイノベーターを見つけて、そこに火をつけることが重要です。しかしながら、それは思考の変化に柔軟で変化にすぐ飛びつく人ようなイノベーターの素質を持つ人なら誰でもよいというわけではないということです。これって忘れがちだけど大事なこと。

ちなみに、この話は、Kerry Pattersonらの"Influencer"という本に出てくるのをもとにしています。

The key to getting the majority of any population to adopt a vital behavior is to find out who these [unwanted] innovators are and avoid them like the plague. If they embrace your new idea, it will surely die.
(Kerry Patterson, et al. "Influencer")

こんな役に立つアドバイスが満載の「How to Change the World 〜チェンジ・マネジメント3.0〜」は、達人出版会で電子書籍として絶賛発売中です♪
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「How to Change the World 〜チェンジ・マネジメント3.0〜」


Influencer: The Power to Change Anything

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  • 作者: Kerry Patterson,Joseph Grenny,David Maxfield,Ron McMillan,Al Switzler
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チェンジ・マネジメント3.0の何が3.0なのか

最近、宣伝づいているようで恐縮なのですが(実際、宣伝なのですが)、先週末に達人出版会より"How to Change the World〜チェンジ・マネジメント3.0"がリリースされました。

おかげさまでみなさんにTwitterやブログでも取り上げていただき、翻訳者はじめ関係者一同、心より感謝しています。

ところで、この「3.0」ってなんなんでしょうか?

Management 3.0とChange Management 3.0

ご存知の通り、原書の著者であるJurgen Appelo氏は、"Management 3.0"の著者でもあります。チェンジ・マネジメント3.0は元々、"Management 3.0"の研修コースの一部(書籍の"Management 3.0"にはそれに相当する章はない)であり、それ故にその3.0を継承していると考えるのが妥当かと思っています。

Manaement 3.0とは

では、"Management 3.0"の3.0というのは何を示しているのでしょうか?
これは書籍の中に書かれています。また、このブログの過去エントリでもそこを引用しながら以下のように記しています。

著者はMANAGEMENT 1.0から3.0を以下のように定義しています。

Management 1.0 = Hierarchies
Management 2.0 = Fads
Management 3.0 = Complexity

要するに、1.0は階層型組織におけるトップダウン型(場合によっては科学的管理とかコマンド&コントロールとも呼ばれる)のマネジメントであり、2.0は基本的な構造は1.0を引きずりながらその上にいろんなadd-onを載せたもの、そして3.0はこれまでとは全く違う複雑系の理論やホリスティックな考え方に基づくマネジメントであるということです。

扱っているのは複雑で適応的な社会システムを変える方法

つまり、本書が扱っているのも、CAS (Complex Adaptive System)なのです。それを表す文言も中にいくつか出て来ています。

我々はみんな、複雑な社会システムを変える方法を知りたいのだ。

社会システムのような複雑なものの振る舞いを変えるためには、チェンジ・マネジメントの4つの側面を理解する必要がある。

そして、それを全く新しい手法や考え方を持ち出すのではなく、その4つの側面に対応する既存の有名なモデルをラッピングする形のスーパーモデルで説明しようとするのが本書の真骨頂なのです。

「How to Change the World〜チェンジ・マネジメント3.0〜」が出ました!

3月末頃からユルユルと翻訳作業を進めてきた"How to Change the World"(Jurgen Appelo著)の日本語版を、昨日(7/13)無事に出版することができました。

本書は電子書籍版(PDF/EPUB)のみで、達人出版会さんのサイトから購入できます。

この本との出会い

過去の関連記事は、こちら

著者のJurgenは、このブログでも再三取り上げている書籍「Management 3.0」を書いた人で、私が最も影響を受けた人物500人のうちの一人です。ご興味があれば是非、ダウンロードして目を通してみてください。

AgileとChange

アジャイル開発の現場においては、変化を抱擁し変化に適応していくことが求められます。そして、アジャイル開発の導入・適用においては、組織レベルでの変化やトランスフォーメーションが欠かせません。
そこでは、チェンジ・エージェントとして適切に振る舞える人が必要であり、優秀なチェンジ・エージェントになるために必要なことが80ページ足らずのコンパクトな小冊子にまとめられたのが"How to Change the World"です。

Fearless ChangeとHow to Change the World

Changeやチェンジ・エージェントというキーワードから、Linda Risingの"Fearless Change"を思い出された方もいらっしゃるかもしれません。そんな方は是非、無料でダウンロード可能な

を併せてお読みになることをおすすめします。
その中にはチェンジ・エージェントが考えるべき問いが、"Fearless Change"のパターンとのリファレンス付きでリストアップされています。

謝辞

今回の翻訳に際しては、原著がそもそもJurgenの自費出版のような形だったこともあり、翻訳の許諾を得るために著者本人に直接コンタクトを取るところから始まりました。日本語版の出版を快諾してくれたJurgenをはじめ、共訳者の川口さん・吉羽さん、レビューをしてくださった原田さん・ナイスビアの永瀬さん・高江洲さん、契約面でお手伝いいただいたアギレルゴコンサルティングの谷口さん、達人出版会の髙橋さん、その他本書の出版に関わってくださったすべての人々に感謝です。